研究事例
農業生物資源研究所 昆虫製造工学研究グループ 生活資源開発チームの研究成果
「農業生物資源研究所ニュースNo.17より」
未分解セリシンの獲得
セリシンは繭屑から熱水やアルカリで抽出すると、変性しやすく、容易に加水分解される欠点があります。分解したセリシンから作った素材はもろくて弱いため、その利用範囲は限られています。そこで、「セリシンホープ」という品種の蚕が吐糸したセリシンだけからなる繭を利用することによって、加水分解のないネイティブなセリシンをほぼ純粋な形で獲得することができることがわかり、この未分解セリシンの利用で、従来のセリシン素材が持っていた問題を解決できるようになりました。
実用的な強度をもったセリシンハイドロゲル
セリシンには、セリン(全体の1/3含有)をはじめとして側鎖に-OH、-COHなどの親水基をもつ極性アミノ酸が多く含まれているため、セリシン利用形態として、多量の水を吸収・貯蔵するハイドロゲルへの展開に着目し、その作製法を検討しました。
その結果、セリシンホープの繭から得られる未分解のセリシンを含む水溶液中に少量のエチルアルコールを加えてセリシンの高次構造を変化させることにより、実用的な強度を持ったセリシンハイドロゲルを作製できることを見出しました(写真)。
セリシンハイドロゲルは用途に合わせて様々な形状や大きさ、硬さに自由に加工できます。凍結乾燥してスポンジ状にすることもできます。特徴としては、
- 架橋試薬を用いないため残留物の危険性がない
- ゼリー状の弾力性とカッター等で加工可能な成形性を有する
- 水分率が98~99%と非常に高い
などが挙げられます。
セリシンハイドロゲルの写真 ロック状(左)やシート状(右)など
様々な形態のハイドロゲルが作製できます。(写真提供 寺本英敏氏)
- ハイドロゲル
- 多量の水を含んだ親水性の高分子をいいます。ゼリーやソフトコンタクトレンズなどもその一種で、生理用品、紙おむつ、化粧品、創傷被覆材など生体・医療材料への応用が幅広く展開されている素材です。
今後の展開
セリシンハイドロゲルの保湿作用や細胞接着性などの性質を明らかにして、保健衛生や医療分野への利用を進めたいと考えています。
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